松江地方裁判所 昭和48年(ソ)1号 決定 1973年8月08日
抗告人 松浦邦雄
右訴訟代理人弁護士 松永和重
相手方 破産者西日本設備工業株式会社破産管財人 馬淵分也
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
事実および理由
本件抗告の理由は、要するに財団債権を被保全権利として破産財団所属の財産につき仮差押することが許されると解すべきであるというにある。
よって判断するに、元来、破産法による破産手続はすべての破産債権者の公平な満足を実現する清算のための包括的強制執行手続であり、破産宣告後は宣告前の原因にもとづく債権による個別的強制執行を許さないことを建前としているし、破産管財人をもって破産手続遂行のための中心的な機関とし、その広い裁量と責任の下に手続の円滑な進行を期している。ところで破産法四九条、五〇条によれば、財団債権は破産債権の行使につき要求される諸手続を経ることを要せず、直接、破産管財人に対しその弁済を請求することができ、破産管財人は破産手続とは別にこれを破産財団に属する財産から支払うこととして財団債権を保護しているものと解せられるが、前述した破産手続の性質および破産管財人の地位、権限にかんがみれば、破産法は破産管財人に対し、財団債権について、破産手続の進行に応じその合理的判断にもとづき適正迅速な弁済をすることを期待しているということができる。したがって財団債権に対する弁済は破産管財人の判断にもとづいて行なわれるべきものであり、強制執行は許されないと解すべきであるから、仮差押することも許されないこととなる。
よって本件抗告は理由がないから棄却することとし、抗告費用の負担については民事訴訟法四一四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 今枝孟 裁判官 山田真也 草野芳郎)